麻酔科をローテートして1ヶ月経ちましたが前立腺癌に対してのロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術(RARP)手術の麻酔に当たる機会が最近多いです。ダヴィンチと呼ばれるロボットによる手術ですね。この前立腺の手術が国内でダヴィンチの適応となった初めての手術だったはずです。一度は見てみたい手術ですよね。
前立腺癌の特徴としてPSA高値を検診で指摘され、生検で診断となり手術に至るという方が多いように感じます。
そのため大きな既往歴はなく、比較的若い方が手術となるため麻酔管理上はそこまで大きな問題がないことが特徴だと思います。まさに研修医向けですね。
今回はそのRARPの麻酔に関してポイントをまとめたいと思います。
麻酔準備
準備に関してですがまずこの手術は概ね4〜5時間くらいの手術となります。個人的にはTIVAで行うことが多い印象です。TIVAに関しては以前の記事(TIVA vs 吸入麻酔)を参照してくださいね。
点滴はAライン1本Vライン2本です。この手術の体位は仰臥位で始まりロボット操作中はtrendelenburg位という仰臥位のまま足をあげて頭を下げる体位となります。腸管を頭側に保持するためだと思います。この体位とロボットが入ることにより術中に新たに点滴を取るのは困難なのであらかじめ上記のようにラインをとります。基本的にこの手術はロボットが大きいので手術が始まってからはなかなか体に触ることができません。しっかり準備が必要ですね。
もう一つのポイントとしてこの手術は閉鎖神経領域を触るので筋弛緩が十分に効いていないと動いてしまいとても危険です。さらに気腹によるお腹の痛みを軽減するためにも持続で筋弛緩(ロクロニウム)を流します。持続の筋弛緩の目安は7γですね。50kgの人だと2.1mL/hr程度になります。ただこの目安だけでも心配なのでTOFモニターがある場合はこれをつけるべきです。手術の体位固定前につけるようにしましょう。つけ忘れた時は皺眉筋や咬筋でモニターします。TOFは0をキープしましょう。最初に体位の確認をされる先生もいます。その時は台を一番高くして頭を一番下げますね。
硬膜外麻酔は行いません。侵襲が少ないためメリットが少ないからです。
手術中
泌尿器科の手術では下腹部操作なので短い手術ではラリンジアルマスクを選択することも多いですがこの手術は比較的長いので挿管です。
手術中は筋弛緩を持続で流す以外は特に他の麻酔と変わりはありません。ロボット操作が始まると先ほどのtrendenburg位になります。初めはロボットのアームに注意しましょう離被架にアームが当たってしまったりするので少し位置を調整したりします。気管チューブに注意ですね。
気腹する手術全般に言えることですが気腹が始まると横隔膜が圧迫されるので換気量が下がります。CO2が貯留する傾向になるので少し換気回数を増やすことになると思います。
落ち着いてくるとすることがあまり無くなります。あえて挙げるならば補液の量を維持量程度にする頃でしょうか。若い人でたくさん補液して尿が出るから大丈夫と考えているとたくさん尿が出て手術がやりにくいので極力絞り気味にします。
補液の維持量の計算は4-2-1ルールが簡単でしょうか。50kgだったら4×10+2×10+1×30=90mL/hrになりますね。1時間あたり10kgまでは体重の4倍、そこから20kgまでは2倍、それ以降は1倍で計算します。
特に問題なく経過しますが最後に手術が終わり体位を戻す時に血圧が下がります。下肢へ一気に血流が行くことによる影響ですね。補液を増やすなり昇圧剤で対応します。結構一時的に下がりますが少し時間が経つと戻るはずです。術後鎮痛のためにフェンタニルやアセトアミノフェンなど好みのものを入れて終了です。
術後
この手術はそこまで侵襲が高い手術ではないので基本的にICUではなく病棟に帰ることになると思います。術後管理で問題となるのは痛みくらいだと思います。
感想
僕は学生の時に泌尿器科はローテートしなかったので面白いと思いながら麻酔をしています。ダヴィンチの手術は今では食道、直腸、子宮など様々な臓器に適応が広がっていますね。やっぱり操作しにくいところの手術には強いですね。難しいところはアーム同士の干渉でしょうか。実際に手術はやっていないのでわかりません笑。手術のスピードも普通のん腹腔鏡と変わらないように感じるのでかなりすごい発明だと思います。
麻酔科としてもそこまで術中変化のない手術なので研修医でも落ち着いて対応できます。というか比較的変化の少ない手術なので研修医が担当することも多いのではないでしょうか。
麻酔に慣れていない時期は比較的問題の少ないこういった症例も勉強になりますね。
コメント
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